時空間データベース

時空間データベース(spatio-temporal database)とは,時間的・空間的な情報と関連付けて表されるデータ群をより直接的に,より効率的に扱うためのデータベースの研究分野を指しています. たとえば,携帯機器やGPSなどを搭載した自動車などの移動オブジェクト(moving object)のデータをデータベース内でどのように表現(モデリング)するか,また,そのような移動オブジェクトの移動状況をどのように記録し利用するか,といった研究課題があります. また,空間的に散在する多数のセンサをリアルタイムにモニタリングするようなセンサデータベースなども深く関連する領域です.

以下で具体的なプロジェクトを説明します.

移動オブジェクトデータベースにおけるデータマイニング

現在アクティブなプロジェクトの一つです.

GPSやセンサなどから取得した大量の移動オブジェクトの移動軌跡データをもとに,移動オブジェクトの移動パターンを要約するような,一種のデータマイニング(data mining)に関する研究を行っています. 例として,以下のような地図(セルに分けられているとします)の上を多数の移動オブジェクト(この場合は自動車)が移動し,各時点の各オブジェクトの位置が送られてきたとします.

移動オブジェクト

たとえば上の図ではオブジェクトAが0→5→6→10→14と移動していますが,これは一種の移動パターンです. 大量の移動オブジェクトが同時に移動する際には,同じような移動パターンを示すものもあれば,そうでないものもあります. うまく情報を集約することで,大まかな傾向をつかんだり,逆に,他と異なる特異な動きをしているオブジェクトが検出できるかもしれません. 集約の結果は,移動履歴のコンパクトな表現や移動予測に利も用できると考えられます.

以下は,移動オブジェクトの移動状況の集約のために提案した移動ヒストグラム(mobility histogram)の概念図です. 移動状況データをリアルタイムに集約して,コンパクトなデータ構造で表現し,ユーザからの移動状況に関する問合せに高速に答えることを目的としています.

移動ヒストグラム

移動オブジェクトに対する適応的な情報提供

こちらは終了したプロジェクトです.

移動オブジェクト(自動車など)に対して,移動状況に応じて情報提供するためのアプローチを提案しました. ある場所を移動している移動オブジェクトに対して,「周辺の情報」といった場合,通常は現在位置を中心とした円(つまりユークリッド距離)を考えます. これに対し,本研究では,楕円形状の距離関数を用いています. 移動オブジェクトの移動パターンに応じて形状を適応的に変化させることで,たとえば高速に移動する場合は縦に細長い楕円,低速で移動する場合には円に近い楕円,といった具合に,その場その場で「周辺」を適応的に決めるという点に特徴があります.

移動オブジェクトへの情報提供

提案手法を実証するため,以下のような周辺情報提供システムのプロトタイプを構築しました. ArcGISというGISシステム上に,TrackingAnalystというモジュールを用いて構築しました. 楕円が現在の検索範囲で,青い丸で囲ったものが周辺の情報(この場合はお店)としてユーザに提示される検索結果です. 右下にテキストとしても表示されます.

周辺情報提供システム